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大阪家庭裁判所 昭和31年(家イ)1595号 審判

申立人 谷川恵子(仮名)

相手方 谷川実三(仮名)

主文

申立人と相手方とを離婚する。

双方の子、長男正、次男誠の親権者を母である申立人と定める。

理由

(一)  本件調停事件の経過は次のとおりである。

(イ)  昭和三〇年○月当時広島県○○市に居住の申立人より広島家庭裁判所○○支部に離婚調停申立があり、「相手方と昭和二〇年○月より同棲し、昭和二一年○月婚姻届出をなし、長男正(昭和二一年○月○日生)次男誠(昭和二三年○○月○○日生)を生んだが、相手方は結婚の最初から虚偽の言動が多く、遂には犯罪を重ね昭和二二年に窃盗罪により懲役一年に処せられ、執行猶予となつたが、更に昭和二六年一〇月窃盗罪により懲役五年に処せられ、前の執行猶予も取消され、減刑の恩典に浴した結果合計四年五月の執行を受けて昭和三〇年八月仮出所した。申立人としては相手方との共同生活に不安を拘き相手方の同居の要求を拒むと、暴行脅迫を加えられ、到底婚姻継続の見込がない」という。

(ロ)  相手方が病気を理由に不出頭を重ねた後三度罪を犯し○○拘置所に勾留中の事実判明し、昭和三一年一〇月当庁に移送されたところ相手方は結局大阪地方裁判所において住居侵入窃盗罪により懲役二年六月に処せられ控訴棄却により確定し目下執行中であり、此の間相手方は調停委員会に出頭し、自己の服役中、申立人にも不貞の行為があつたことを理由に調停に応じない。

(ハ)  同一二月申立人当庁に出頭し、相手方の受刑中二児を抱えて生活に困り、○○市で相手方の従妹の経営するバー○○に働く内昭和二七年一月同市居住の浅井明と知り、経済的援助を受けて妻子ある同人と情交関係を生じ、継続中であつて、勿論不貞行為の責任は反省しなければならないが、相手方も結婚以来何等妻子に尽してくれたことがなく、昭和三〇年仮出所の際も自分と浅井明に対し金三〇万円を要求し応じないと殴る蹴るの暴行をする始末であるから、婚姻継続する限り生活建て直しの見込がない」という。同期日相手方も出頭し、離婚を承諾すれば相手方は浅井と結婚するであろうから堪えられぬとて応じない。

(ニ)  昭和三二年三月当裁判官が大阪拘置所において相手方に面接したところ、「自分の在監中如何に申立人が生活に困つたからとて不貞行為を続けていることは許せない。併し申立人のような有名無実の妻は自分の更生にも妨げになるかも知れぬと言われてみると、申立人の現在の生活状況によつては考え直すことになるかも知れぬから調査してほしい」という。

(ホ)  広島家庭裁判所○○支部調査官に調査嘱託したところ、申立人はアパートに住み本年三月迄女給をしたが、衣裳代に金がかかるのみであるからその後はミシン内職をしているが、不安定で浅井より月五-六〇〇〇円宛貰い、関係が続いていると言い、浅井は申立人との関係は同情から始まつたことであるが、このため自分の勤め先も退職し、財産も使い果し、このままでは経済的破綻のほかない。申立人が独力で生活できるようにさえなれば同人との関係を解消したいと言う。同調査官が二児の担任教師につき調査したところでは、生活は苦しいらしいが、二児の性格は明るく、素直でよい子であると言う。

(ヘ)  本年五月当裁判官が○○○刑務所において相手方と面接したところ、相手方はあと二年足らずで刑期が終るのに、申立人が待てないというのは、自分が前回仮出所の際申立人及び浅井から「今後二人は一切交際せず、違反の時は如何なる制裁も受ける」との誓約書をとつてあるのを免れたいからであろう。自分としては申立人と復縁することは難かしいと思うがとに角出所後対等の立場で話合つた上で離婚する。将来出所後そのような交渉に暇を潰すことが自分の更生の妨げになると言われてもその気になれない」と言う。

(ト)  同年八月上旬当裁判官が広島家庭裁判所○○支部において申立人及び浅井に面接したところ、両名とも申立人が○○にいてはいつまでも不純な関係が続き、浅井の家庭をも破壊し、すべての事態を悪化の一途を辿らせるだけであることを反省し、○○市○○○町の実父のもとに帰つて更生をはかるほかないから、早速その準備にとりかかること及び之を機会に一切の関係を清算することを誓つた。

(チ)  同年九月○○日申立人より二児と共に○○の父の許に移転したことを証する住民票謄本を同封し、各方面に迷惑をかけたが今後は小商売でも営んで生計を樹て二児を立派に育てたいが、その資本を借りるにも又民生保護を求めるにも戸籍上夫があつてはむつかしいから是非離婚を求める。相手方にも自分のことを忘れて更生するよう伝えてほしいとの申出があつた。

(二)  以上の経過から考えると、相手方が自己の受刑中に申立人が不貞行為を続けながら、離婚調停の申立をしたことに対し不満を持つことは無理からぬところであるけれども、相手方も亦犯罪を繰返し長期間の受刑を重ねて妻子を極度の困窮に陥れたことを十分反省しなければならないのであつて、夫婦のいずれか一方のみの責任を問うわけにゆかない。相手自身ももはや申立人との間に円満復縁の見込がないことを認めながら、将来出所後対等の立場で話合つた上離婚するというのであるが、その真意は申立人及び浅井の差入れた誓約書に基いて両人を追究しようとするのであるから、当裁判官が面接の際繰返し説いたとおり、将来折角出所の機会を迎える大切のときに、自己の更生に何等役立たぬ行動をとることが如何に有害無益であるかを理解して、行動を慎しむほかに相手方の救われる途のないことを自覚してほしい。申立人が今尚浅井と醜関係にあるならば格別であるが、両名とも今度こそこの関係を清算することを直接当裁判官に誠意を以て誓約したのであり、現に申立人は永年居住した○○市の住居を引払つて二児と共に肩書地実父方に移転し、二児の勉学と成人を楽しみとして自活更生を心掛けるというのであるから、この機会に相手方との離婚を求める申立人の心情も無視することはできない。一方相手方としても、徒らに過去に捉われることなく、申立人との交渉を断念し一日も早く心機一転して受刑中の現在において将来出所後の更生を図る心構えを確立しておくことを切望して已まない。

結局当裁判所は家事審判法第二四条の定めるところに従い、調停委員日下昌信、谷頭半の意見を聞き、当事者双方のため衡平に考慮し一切の事情を観て職権で当事者双方の申立の趣旨に反しない限度で事件の解決のため主文のとおり審判するのを相当と認めたのである。

(家事審判官 沢井種雄)

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